第11章 急展開
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「ねぇ、曽祖父様は尊家のことなんてご存知ないはずなのに、どうしてあたしのことを婚約者だって遺言に書けたの? 仮に書かれていたとして、秘術とどう関係があるの? どうしてあたしが見たものと悟くんの見たものは違うの?」
ずっと聞きたかった事を悟くんに質問攻めする。婚約に同意した後は、あたしも遺言の内容を知ることが出来るらしい。
「じゃあ謎解きでも始めるか」
そう言って悟くんは床に置いてたアタッシュケースをさっと持ち上げる。さっきからなんだろう? ってずっと気になってた。東京から持ってきたみたい。ピロリンって鍵を解除する電子音が鳴ってケースが開かれる。なかなかハイテクだ。
そこから悟くんが取り出したのは――菱の白地に紫の梅の模様が施された巻物。
遺言書? あたしが見たものにそっくり。
「夕凪が見たのもこれだよな? ひい爺さんの遺言書。婚約者と術式相伝の秘術が書かれてる」
嘘でしょ! 持ってきたの? 遺言書は門外不出の書。厳重に管理されていて、持ち出しなんて当然禁止。超重要な五条の機密書類のはず。
「そんな大事なもの持ち出して大丈夫なの?」
「大丈夫なわけねー。今頃、屋敷の中は大騒ぎかもな。オマエも共犯だからな夕凪。長老の説教くらえよ」
「なんで!」
「オマエのために、こそこそ泥棒みてぇな真似して持ってきてやったんだからな」
意味わかんない。そんなの頼んでない。長老の説教は正座で半日続く事が多い。足がしびれるなんてもんじゃない。壊死に近くなる。冗談じゃない。19歳と20歳で並んで正座で説教されてる絵面も悲しすぎる。
「一緒に見よーぜ」って"一緒に"の部分を強調して、共犯性をアピールしてくる。この人と一生を共にするのか……さっき同意したばかりの婚約者を降板したくなる。でもあたしは今、その遺言書の中身がどうなっているのか知りたくて仕方ない。しょうがなく共犯になることにした。