第11章 急展開
「なぁ夕凪、もう一回やり直さねー? 婚約者の同意から」
「いいの? まだ間に合うの?」
「間に合わなくても僕は夕凪しか嫌だしね。オマエもそうだろ、僕しか嫌だろ」
悟くんのこの余裕っぷりは鼻につくけど、実際にそうだ。悟くんと過ごした時間はとてつもなく長くて、積み重ねたものは大きくて、その存在を忘れようと何度も頑張ってみたけれど、結局ずっと好きだった。
空を見上げるだけでそのグラデーションが悟くんの目と重なって恋しくなる。誰にも触れられたくないのに、悟くんには触れてほしい――そんな熱情で身が焦がされる。
「悔しいけど、あたしも悟くんしか嫌」
「ふっ、悔しいってなんだよ。夕凪は僕と幸せになりたいんだろ?」
「……」
「五条夕凪になりてーんだろ?」
「ねぇ、見たの!?」
「たくさん練習してたよなー。オマエの名前よりもたくさん書いてたよな」
「人の机の中見るとか最低じゃん」
「勝手にオマエが出て行くからだろ。手がかりねーかってそりゃ見るわ」
「は、恥ずかしすぎる。あれは、ひとりごとみたいなもんだから」
「あぁ、あれなー。五条悟 五条夕凪、末永く幸せでいれ――」
「言わなくていい!」
あたしの顔はきっとトマトみたいに真っ赤っかだ。トマトみたいなタヌキだ。逆か、タヌキみたいなトマト? いや、あたしはタヌキじゃない! 五条悟に洗脳されてる。
そんなあたしが恥ずかしがってるのを見て悟くんは楽しんでる。いつものこと。あたしたちの関係は離れても簡単に崩れたりはしないんだと実感する。