第11章 急展開
「もう、この話は終わりになってしまったの?」
「そんな悲しい顔すんなよ。終わりを告げるために、わざわざここに来るわけねーだろ。取り戻しに来たんだよ、オマエを」
「もう逃さねーから」
大きな影が頭上を覆ったかと思うとふわっと優しく背中に両腕が回され、真正面から抱きしめられた。がっしりして広い悟くんの胸に頭を抱き寄せられる。ラグジュアリーなシャツの香り。
――あったかい。ガチガチに固まっていた氷が溶けていくかのように心が解放されていく。
「ずっとあたしのことを好きでいてくれたの? こんなにも長い間、忘れないでいてくれたの?」
「当たり前だろ。夕凪の事、思わなかった日なんかなかったわ。どこにいたってオマエの影がちらついて離れねーし、『悟くん』って声が、耳の奥から聞こえるし、ずっと探してたんだからな」
あたしを抱きしめるその腕がさらにぎゅっと強くなった。シャツを通して頬に悟くんの鼓動と熱が伝わる。
「悟くんごめんなさい。あたし本当は別れるつもりじゃなかったの。でも、悟くんの部屋でたまたま遺言書を見てしまって――」
「そこに書かれてた婚約者は自分じゃなくてショック受けたんだろ。僕がそれに同意したと思って、五条のために身を引いたんだろ」
「……知ってたの?」
悟くんは全てわかっているようだった。あたしがお屋敷を出た後に、お母様から事情を聞いたらしい。彼が見た遺言書の婚約者とあたしが見たそれが食い違ってる理由も悟くんはわかっているようだった。