第11章 急展開
チャラい奴に誘われてねーか超心配だったし、男、出来てたら、そいつぶっ殺しに行ってたかもなー。まぁ、夕凪に限ってそれはねーか。妊婦に声かけるとかねーし、そんな奴いたとしても夕凪はのらねーし! オマエは一途でけなげな可愛いやつだもんなぁ、って立て続けに話しかけてくる。
なんで? なんでそんな事言うの? あたしは、今、悟くんを忘れようと、心を立て直そうと必死だっていうのに。
「……もう戻るべき所に戻って。婚約者さんには、あたしの存在は知られてないんだよね? 五条家には迷惑かけずに子供と生きていくから、悟くんは安心して幸せになって」
「婚約者ねー……」
「決まったんでしょ? おめ、で、と、今日は悟くんの誕生日だし、本当はお祝いする予定だったんじゃないの?」
言った瞬間から悲しくなった。うまく笑顔が作れない。失敗。婚約者の話をするにはまだ、時の経過が必要だった。心の準備が足りてない。辛くて胸が張り裂けそうになる。
「婚約者には今から祝ってもらうからいいよ」
「……そう」
「夕凪」
「はい」
名を呼ばれてそれに答える。ただそれだけの事なのに涙が出そうになる。優しい声色。甘い響き。嬉しいけど苦しい。
婚約者の事もそうやって語りかけるように名を呼ぶの? 嫉妬の感情が溢れ出す。あたしはまだこの人が好きなんだと、否応がなしに自覚させられる。
返事したまま棒立ちしてると、悟くんはあたしの目の高さに合うように、長身を屈めてきた。その宝石のような瞳の中にあたしが映り込んでいる。