第11章 急展開
悟くんが目の前に立っている。その事実が今も信じられない。変わらないさらっとした白髪に端正な顔立ち。
高い腰の位置からすっと伸びる長い足。もう二度とこの姿を見ることはないと思っていた。
「頑丈な結界でよ、破るのに2回も茈、発動した」って言う。胸ポケに入れてたサングラスが衝撃波で壊れたらしく「これ結構、気に入ってたんだけどなー」ってテンプルを指で摘んでぷらぷらあたしに見せてくる。
9ヶ月間会っていなかったなんて、まるで嘘みたいに、あたしが五条家を出て行ったなんて知らなかったみたいに、普通に話しかけてくる。
冬の始まりを告げたばかりの北の地で、キッチン付きの10畳ほどの洋室で、赤ちゃんを抱っこした状態のあたしは、何を話していいのかわからず、たじろいだままだ。
あまりに予想していなかった出来事で「悟くん」って言ったはいいものの、うまく言葉が続かない。
「怪我してねー?」
「あ、うん、大丈夫」
「子供は?」
「えっと、元気。大丈夫」
「ならよかった」
悟くんは一歩あたしに近づいた。抱いてる赤ちゃんが気になってるみたい。そりゃそうだよね。子供は? って自然に聞いてくるけど、突然存在しているちっちゃな生命に、驚かないわけがない。
背の高い悟くんが上からじっと赤ちゃんをのぞきこんでる。
「パパのお出ましだってのに寝てんのか」
「パ、パ?」
「僕の子だろ?」
「……あの、」
衝撃すぎて言葉が詰まる。パパ、なんてあたしもまだ1回しか使った事ないのに。
あたしが妊娠した事は奥様経由で知ったみたい。この子は間違いなく悟くんの子。でも、五条家のためを思ったら、悟くんの子じゃないって答えるのが正解なのかな?
術式もない五条家の非嫡出子なんて、存在すべきじゃないもんね。返事に困っていると、悟くんはさらに赤ちゃんをまじまじとのぞきこんだ。