第11章 急展開
あたしが様子を見ていると、秒の速さで近くに寄ってきていた。頬を手で触られそうになって術式で直哉さんの手を焼く。呪力で守るだろうからこれくらいじゃ呪術師には大した攻撃にはならないけど。
「あっつーーー!!! なにすんねん」
「近寄らないで。これ以上こっちに来たら殺すから」
距離を取った。子供が巻き添えになってはいけない。ベビーベッドに子供を寝かせて、あたしの後方に置く。
「殺すて、そんな大袈裟な」
「ほんとに殺すから」
空気中から水素、窒素、酸素を大量に化学反応させてHNO₃……硝酸を生成する。あたし自身を水膜で覆って直哉さんに硝酸を噴出する。
「ひゃぁー、こんなん顔にかかったら、俺の綺麗なお顔が、台無しや」
「何度も言うけど近づかないで、もう帰って」
何度かあたしは直哉さんに術式を飛ばした。もっと大きな爆発物も作れるけど家屋が破壊されたら、子供も怪我するかもしれないから出来ない。ジューと直哉さんの衣服が硝酸で溶ける音がする。
「なぎちゃん、ちょっと落ち着こうや。冷静なってみ。俺は土地の権利書持ってんねんで、ほら。これあげるー言うてんねん。ここ出て行け言われたら明日から子供とふたりでどこに住むん?」
「脅しですか?」
「ちゃうちゃう、取引や」
どこまでも卑怯な男。綺麗な言葉で片付けようとする。最低! 最低! 最低!
「あたしなんかと遊んだってなんにも楽しくないですよ」
「別にいーねん。本気になんかならんし。ただこのまま帰るのも胸糞悪いってだけ」
「死んで」
「なんて言った? 俺の権限で今すぐここ出て行く? それでもええんやで別に。そんなちっちゃい赤ん坊とうろうろさまよう? 見つからんようにしながら」
……。