第3章 使用人
今日もテスト前だと言って部屋にいる。あたしだってテスト勉強したいのにダラダラされて集中出来ない。
「なぁ、学校って行く意味ある? どうせ呪術師になんのに関係ないよな」
「お勉強は大事って当主が仰ってたよ。ちゃんと勉強やんなよ」
「早く高専行きてー」
小学校も中学校も悟くんはつまんなそうにしていた。多分、心から話が出来る親友が学校にいなかったんだろう。
それに生まれながらに将来が決まっているんだったら義務教育を受ける意味がわからないのも理解できないこともない。
悟くんはだるそうに教科書をめくってる。
「褒美とかないと勉強とかやる気しねぇわ」
「欲しいもの全部手に入ってるくせに褒美ってなによ」
「キス」
は?
一瞬、呼吸が止まった。耳を疑う。あたしと視線を繋げてなに軽率に発言してみてんの?
そんな事、使用人のあたしに言う!? そんなモロに、そんな直接的に。
それはパワハラって言うんだよ、悟くん。
目を逸らすと悟くんが消しゴムを上に投げてキャッチ、上に投げてはキャッチし始めた。
「一回やってるし、別にいーだろ」
「それは、人口呼吸のこと? あれはキスじゃないでしょ」
「似たようなもんだろ、口と口をこうやって――」
「違う!」
あたしの唯一のきゅんきゅんを汚さないでよ、悟くん。それに散々モテてるでしょ?
「彼女にキスしてもらいなよ」
「いねーもん」
「作れば?」
「……いいの?」
知るかっ! なんであたしにそんな事聞いてくるの?
いっぱい群がってる女の子たちの中から「キスしてくれる人ー?」って募集かけたらみんな喜んで手を挙げるんじゃないの?
「あたしの許可なんて必要ないでしょ、使用人なんだし」
「あっそ」
悟くんは消しゴムをパシッと手の中に収めると、つまんねーのって顔して教科書をどかして漫画を読み始めた。
使用人って言葉は頻出単語すぎてすっかりあたしの脳に住み着いてる。
ちょっとした事で出てきてしまう。もともとこの言葉を使ったのは悟くんだからいいよね。
それに、あたしは……。
悟くんのファン(と勝手に名付けさせてもらったよ!)達に聞かれたこの質問にそろそろ向き合わないといけない。
「五条くんってもう婚約者が決まってるって本当?」