第11章 急展開
8月。
赤ちゃんの出産予定まであと2ヶ月となった。妊娠8ヶ月。街に出て、ベビー服なんか見てみる。可愛いのたくさん売ってる。
性別は……この間、病院でちらっと教えてもらった。あたしの希望どおりで嬉しかった。楽しみ! 悟くんに似てるかな? あたしに似てるかな?
北海道は土地勘がなくて、あまり出歩かなかったけど、この日は都市の中心部まで行ってみる。すると、そこで懐かしい姿を見た。高専の制服だ。任務でこんなところまで来たの?
面識がないから、あたしが辞めた後に入学してきた後輩達なんだろうな。気になって術式で少し声音を拾ってみる。
「聞いた? 五条さんの話」
「え、なになに?」
「1級呪霊をさ、5分で祓ったって」
「やべぇよなー。見てみたいよなぁ、赫とかさ」
悟くんの話だ! 後輩にすごいって言われてる。赫か……。懸命に術式を完成させようとしてた頃を思い出す。なかなか上手くいかなくて、熱まで出して必死にやってたよね。遺言の思い通りになるのはごめんだって言って……。
「そうそう、そう言えばさ、五条さん、婚約者が決まったらしいよ」
「知ってる知ってる、どんな人なんだろうな」
「面食いそうじゃねー?」
「ブスと結婚するわけねーだろ、とか言いそうだもんな」
「相手は誰だっけ?」
……婚約者、決まったんだ。そっか。あのパーティからもう少しで半年経とうとしている。お付き合いして仲を深め合ったのだとしたら、ちょうどこれくらいだよね。来年は婚約の儀。もうそろそろ決まってもいい頃だもん。
そっか、
そっか、
そっ、か、
そ、っ……か。
そ…………っか。
言葉に詰まる。別に落ち込むことじゃない。これは分かってた事。当たり前の事。幸せになって、悟くん。だけど、とてもじゃないけど、お相手の方の名前は聞けないな。聞かなくてもいいよね。術式を解除してあたしは音を拾うのをやめた。