第11章 急展開
先輩は信じられないという顔であたしを見ていたけれど、ぴくりとも表情を変えないあたしを見て冗談だろという考えは変わったようだ。しばらくすると、憐れむような目付きに変わる。
「すまなかったね、私が悟の近くにいればこんな事にはならなかっただろうに」
夏油先輩ー!! 見た目もお坊さんだし、思わず数珠つけて拝みそうになる。なんで謝るんですかー! いてもいなくても悟くんは婚約しましたからー!! あまりの優しさに泣きそうになる。非術師を大量に虐殺したとか信じられない。
「どういういきさつでそうなったんだ?」ってまるでほんとのお坊さんみたいに親身に尋ねてくる。ついその声色に乗せられて色々と話してしまった。
「五条家は代々遺言で婚約者が決まってるんです。それには無下限の術式遺伝が関わっていて、悟くんは遺言に従う事にしたんです。あたしは、自ら身を引いて、妊娠を知られまいと五条家を出てきたんですけど、住むところが見つからなくて途方に暮れてるところです」
「なるほどな」
話を聞き終え、夏油先輩があたしに優しく笑いかける。ひとつ聞いていいか? と言われ頷く。
「今でも悟のことが好きなのかい?」
「……好きです。けど婚約を邪魔するつもりはなくって遠くから幸せを願おうって。五条家に迷惑かけたくないので」
「遠くから幸せを願う、か」
はっきりとは言わないけれど、夏油先輩にもそんな人がいるようだった。「皮肉なことに彼女は私が軽蔑する猿だからね、結ばれることはないんだ」って寂しそうに笑う。