第11章 急展開
移動が止まったのを感じ、あたしは術式の放電を使って操術されてる呪霊をぶち破り、外に出る。
ここは……古いお寺のようだ。目の前に夏油先輩があぐらをかいて座っている。再び術式で体を覆うけど、穏やかな表情で見つめられ調子が狂う。
「私が呪霊を出しても悟が来ないということは、尊はひとりで清水寺に来たのかい? 悟が君をひとりにするなんて珍しいな」
「……」
「悟と喧嘩でもしたのか? 子供が生まれるのに困ったもんだな。お腹の子に良くないから早く仲直りするんだよ」
夏油先輩は夏油先輩のままだった。あたしと悟くんが結婚したと思っているようだ。もっと残酷な呪詛師に成り代わってしまったのかと思っていたけれど、術師だけの世界を作るために高専から離れただけで、君達が嫌いになったわけではないと言う。
「先輩は高専に追われてるんですよ。どうしてあたしに声をかけたんですか?」
「いけなかったかな? オメデタなんだろ? お祝いの言葉をかけたかっただけだよ。悟がいないのは残念だったがね。まぁ、アイツがいたら私は殺されていたかもしれないが」
ハハと笑う口ぶりは余裕だ。あたしがひとりであんなお守りを買ってたから、見かねて声をかけてくれたの? お祝い、なんてそんな言葉をくれたのも夏油先輩が初めてだ。そもそも誰にも子供の話はしていないんだけど。
絶妙な角度で入り込んでくる優しさ。高専にいた時からそうだったけど、夏油先輩と話していると、心が緩んでくる。先輩は呪詛師だっていうのに。
「で、喧嘩の原因はなんなんだ? どうせくだらない事なんだろ?」
「……喧嘩したんじゃありません。彼が婚約するので、あたしは五条家を出てきたんです」
「悪い冗談はよしてくれないか。悟が君を手放すわけがないだろ。そんな話に私がひっかかるとでも思ったのかい?」
「ほんとです。悟くんとは別れました。夏油先輩を見つけても連絡しないのは、高専や悟くんにあたしの居場所を知られたら困るから」