第11章 急展開
桜の名所らしいけど今はまだ3月上旬。開花前で人がごった返すほどの観光客はいなかった。お寺の周りを巡回して授与所で足を止める。いろんなお守りが売られている。目につくのはやっぱり「安産祈願」のお守り。かわいらしいピンク色だ。
「1つください」
安産祈願のお守りを袋に入れてもらってお金を払い受け取る。しばらく眺めてカバンに入れた。
「悟の子かい?」
突然隣から声が聞こえた。ビクッとして体が強張る。聞いた事のある声。わずかな視界から入ってくるのは大柄な男の人。体は正面に向けたままおそるおそる首だけ声がした方向に向けた。
「げ、とう先輩!?」
「やぁ。奇遇だね」
切れ長の目は相変わらず美しく、穏やかに笑みを浮かべている。髪を下ろしているけれど、前髪のアイデンティティは変わらない。
間違いない! 夏油先輩だ。袈裟を見に纏った僧侶のような格好をしているけれど、清水寺で働いてるの? いやいや、まさか、違うよね。
夏油傑――高専が追う特級呪詛師。呪術規定を破った処刑対象だ。もはや先輩ではない。あたしは咄嗟に身構えて、呪力量を引き上げた。
術式で大気中の水蒸気から電気を帯びさせ全身を覆う。守りも攻撃も出来る技だ。夏油先輩と向かい合う。
「久しぶりに再会したのにそんな挨拶かい?」
「夏油先輩は処刑対象です」
「ハハ、残念だけど尊では私を殺せないよ。悟に連絡した方がいいんじゃないのか?」
悟くんに連絡したいのは山々だ。だけど電話する事は出来ない。高専にも知らせる事は出来ない。あたしが躊躇していると、夏油先輩は突然呪霊を出してきてあたしはそれに飲みこまれ、どこかに運ばれた。
――速い。圧倒的なスピードで全く対応出来なかった。