第11章 急展開
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桃の節句。悟くんの婚約者候補が集まるパーティの日。うららかな春の日差しが心地いい、寒くも暑くもない日だった。身重の体でスーツケースをごろごろ引っ張り歩くあたしにはありがたい。
――なるべく遠くに行かなきゃ
五条のお屋敷を出たあたしは、歩きながら考えた。お別れの手紙を残してはきたけれど、悟くんはあたしの事を探すかもしれない。もし奥様があたしの妊娠に気付いて、それを悟くんに告げたとしたらなおさら。
悟くんはきっと放ってはおかない。勝手にしたら? いなくなったもん知らねーし、とはならない。無下限は遺伝してないんだろうけど悟くんの子供だ。そこに無関心になるような人ではない。
あたしを探したとして、彼はどうする?
子供に手を下す? それとも五条家を乱してでもこの子を五条に受け入れる? わからない。わからないから相談出来なかった。
でも……東京駅を目の前にして思う。
「夕凪のことまだ好きなんだけど」
最後に言われた彼の言葉が胸に刺さってる。婚約者を選ぶあのパーティーでどうしてそんな事をあたしに? 遺言に同意してあのパーティに臨んだはずなのにどうして?
ひょっとしたら悟くんは、「あたしも悟くんの事がまだ好きなの」って本音を言ったら、妊娠を告げたら、喜んだんじゃないかな? なんて思いも巡る。この子を殺めるような事は絶対にしない気がする。
だけど、いずれにせよ、五条家の中は大混乱だ。揉め事は避けられない。あたしの大好きな人達にそんな迷惑をかけるわけにはいかない。
――やっぱり、もうここには戻れない。
意を決してあたしは東京駅の改札をくぐった。