第10章 別れ
「なにか心当たりある?」
夕凪の母親が頭を振る。疲弊しているようだった。昼間のパーティーで働いてその後、娘がこんな手紙を残していなくなったんなら無理もない。
「夕凪の事で何か思い出したら教えて」
そう言って僕はその場を離れた。
夕飯の時間になっても夕凪は姿を見せなかった。携帯にも連絡してみるが、電源が入っていないっていうメッセージが流れるだけ。
僕と話す予定だったのに、何で出て行ったのか不可解で胸の中がわだかまる。僕がまだ好きって言ったから逃げたくなったのかとかそんな事もよぎる。
探すなと言われても心配するなと言われても、好きな女がいなくなって、今頃、こんな夜にどこで何してるんだって思ったらじっとして居られなくて、僕は屋敷の門を出た。
空中に上がって東京全体を見下ろす。街の中心から郊外まで夕凪を気取るためにいつもより神経を研ぎ澄ませた。こうやって上空から広がる夜景を見下ろすと夕凪を抱えて、夕凪が僕の首に手を回してぎゅっと摑まって、ふたりで360度のパノラマを楽しんだのを思い出す。景色が良さそうなところに来ると夕凪が言う。
「悟くん、ひゅーってやつして」
「ひゅーってダサくねぇ? もっと他にいいネーミング考えろよ」
「じゃあ、うーん……次までに考えとく」
次って言ったよな。
それはいつ? ……いつなんだよ。
夜8時。東京上空から隅々まで見たけど夕凪の気配はなかった。きっと夕凪はもう東京にはいない。