第10章 別れ
「夕凪が置手紙残していなくなったんだけど。携帯も繋がらねぇ」
「へ? 坊ちゃまに、手紙」
「そ。今日、夕凪と話す予定だったんだよね。いなくなるなんておかしくない? 何かの事件とか呪詛師がらみだったら高専にも連絡しねーと、捜索しねーと」
携帯を取り出してアドレス帳から高専の電話番号を表示する。何か知ってそうで、カマをかけた。
「待ってください、そうじゃないと、思います」
「そうじゃない、って?」
「……娘を、探さないでもらえますか?」
夕凪の母親は少し迷っているようだったけど、僕が持っているのと同じような千切られたノートの1ページを出してきた。手紙だ。夕凪の字。
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お母様、あたしは五条家を出ることにしました。急にごめんなさい。こんな形でお別れになって顔も見ないで出て行ってごめんなさい。あまり時間がないの。お金の事は大丈夫。呪術師で得た収入があるからそれでしばらくは何とかなる。これは悟くんとは関係のない事だから、もし彼が何か聞いてきたら探さないでって言っておいて。もう五条家に迷惑かけたくないんだ。
心配しなくても命を絶ったりはしない。お父様が残したあたしを勝手に終わらせるようなことはしない。それは絶対にないから安心して。
けど、もうここにはいれないの。お母様、お元気でいてね。あたしを五条家に連れてきてくれてありがとう。ここに来たばかりの時はさんざん泣いて嫌がったけど、悟くんの遊び相手になれて本当によかった。お母様のおかげ。お母様大好き。お母様の娘でよかった。お父様とお母様の子供でよかった。短い手紙でごめんなさい。そろそろ出ます。
あたしがいなくなったことで、ひょっとしたらお母様が五条家に居づらくなってしまうかもしれない。親不孝なことしてごめんなさい。体に気を付けて、お元気で。離れていても夕凪はずっとお母様の娘です。
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