第10章 別れ
なにこれ、嘘だろ? 偽物? なんかの呪い?
瞬時に考えて手紙をじっくり見てみるがそれはない。もう一度、最初から読み返す。夕凪に電話する。携帯を鳴らすが繋がらない。電源が入っていないとメッセージが流れる。
は?
は!? なんで? どうなってんだ。今晩、話しようってさっき言ったよな? 夕凪の口からそう言ったよな?
出なくちゃいけないってどういう事? もうここにいねーの? 慌ててもう一度屋敷内と離れを探すけどどこにも夕凪の姿は見当たらない。何度も手紙を読み返す。愕然とする。もう二度と会わないような、会えないような手紙。
五条家に迷惑がかかるって、これまでも散々そんな事言ってたけど、僕の側から離れる事はなかった。なのにどうして? 相談したい事は呪術師を辞めるってほんとにそれ? 昼間、少し微笑んでたよな?
何もかもが分からない中で確かなのは、夕凪がいないってことだけだ。まだでも決まったわけじゃない。
信じたくない。冗談みたいな顔して現れるかもしれねー。いったん冷静に自分を取り戻す。周囲に知らせて、夕凪を見てないか確認したいけどここは慎重に行くべきだ。
夕凪がいないとなると婚約者の話がまた大きく揺れ動くことになる。いよいよ別の婚約者を立てないといけなくなる。手紙を丁寧にたたんで僕は部屋を出た。まずは、夕凪の母親からだ。何か知ってるかもしれない。
夕凪の母親を探すが見当たらない。まさか親子でいなくなった? 近くにいた使用人に尋ねてみると、さっき洋館から帰ってきて、しばらくしてどこかに行ったっていう。
離れに向かってみると途中、青白い顔した夕凪の母親がいた。僕と会うと不自然に目をそらす。何か知ってそうで呼び止めた。
「ねぇ、夕凪どこにいるか知ってる?」
「坊ちゃま、本日はどうもお疲れ様でした。夕凪、ですか……夕凪は、あの……お友達のところに泊まるって」
「友達? 体調良くねぇのに泊まりに行ったの?」
「それは……」
夕凪の母親は嘘が下手だ。さっきから目が泳いでるし言葉がたどたどしい。直球で聞いた方が早そうだった。