第10章 別れ
嬉しかったんだ。そして嬉しいって思う自分に驚いた。今まで想いを封じ込めてたんだって自覚した瞬間だった。
悟くんはあたしの大好きな和装姿だったし、抱きしめあった時、ドキドキして心臓が飛び出そうで、こんなに温かくて優しいぬくもりがこの世にあるんだって知った。好きだって思った。
高専に誘ってくれてありがとう。実はあの時、かなり迷ったんだけどね、逃げずに好きな人の側にいれてよかった。そして、高専で、悟くんが一番辛かったであろう時に側にいれてよかった。ただ近くにいただけだけど。
後悔しない生き方を教えてくれてありがとう。悟くんが死ななくて本当によかった。ずっと言えなくて苦しかった好きって言葉をやっと言えた。どうしようもなく狂おしいキスだった。あたしの初めてのキス。
そしてお祝いした初めての悟くんの誕生日。今さらだけどすっごい恥ずかしかったな。あれからあたしは抱かれる悦びを知った。悟くんが教えてくれた。体中が痺れて、心も体も満たされて、このまま時が止まって欲しいって何度もそう思ったよ。
付き合った時間は宝物で、別れた今も時々思い出して幸せな気持ちになったりする。幾度となく過ごした夜も、デートした事も、もらったプレゼントも、何気ない日常も。
花火を見た日に離れないってずっといるよって誓った言葉も忘れてはいない。
だけど、ごめん。
もうその言葉を守れないや。何がなんでも悟くんの近くにいます、ってあのお盆の夜に心の中で誓いを立てたのに。あたしの原点だったのに。悟くんからもらった最初の言葉だったから大事にしたいと思ったのに。
きっとあたしがここにいたら五条家に迷惑がかかる。どうしてもここを出なくちゃいけない理由が出来たの。身勝手なこと言ってごめんなさい。
さっき、相談したい事があるって言ったのは、あれは、高専のこと。体調優れなくて呪術師辞めようかなって思ってたの。悪いけど高専に連絡して、手続きしてくれないかな? 最後まで迷惑かけてごめんね。