第10章 別れ
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悟くん、今までありがとう。5歳の時、沢山いた女の子の中であたしを選んでくれてありがとう。桜吹雪の中、手を繋いで歩いた事、一生忘れない。
いっぱい遊んでいっぱい喧嘩して泣いて怒って、賑やかな毎日だったなぁ。悟くんの口の悪さとイジメっぷりに心底あなたの事が嫌いでした。
でも悟くんはいつもあたしがどうしようもない時、ひとりぼっちになった時、誰にも言えない辛さを抱えた時に、あたしを守ってくれた。助けてくれた。気づくといつもあたしの事、見ててくれた。
だからあたしは五条家で暮らすうちに、知らず知らずのうちに、悟くんは大切な存在になって、自分よりも大切な人になっていったんだ。命をかけてもいいと思うくらいに。
この大切な人っていう気持ちは、いつの間に好きに変わっていったんだろう? 中学の頃、悟くんの周りには女の子がいっぱいいてモテたから、あたしは距離を置いた。彼女でもなんでもない自分が近くにいるのはおかしいから。
それに、その時にはすでに婚約者の話を聞いていたから、あたしは、次期当主に恋なんてないって思ってたんだ。悟くんは大切な人だけど、好きになる対象じゃないって。
好きになっちゃいけないってきっと無意識に気持ちに蓋をしたんだと思う。悟くんが誰と付き合おうと特別な関心はなかった。悟くんは別の世界の人だった。
そしたら、悟くんは……悟くんは、急にあたしを選んだ。手を取って抱きしめた。悟くんの周りにはたくさん可愛い女の人がいるのに、ふさわしい女なんて誰もいないって、夕凪みたいな女は他にいないって言って。あたしを特別みたいな目で見つめて、死なせねーから高専来いよって。
側にいて、ずっと俺の見えるところにいて、俺を近くで見ててって言ったよね?
お盆の夜。そう、あの離れでの夜だよ。
今でも鮮明に覚えてる。