第10章 別れ
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昼前から始まったパーティーがお開きとなったのは午後4時。集まった婚約者候補と全員話ができるようにと、長時間のパーティーに設定されていたようだ。
最後は順番にひとりずつ、僕と全員、話をしたらしいけど、頭の中を占めているのは、途中、夕凪と話した会話だけ。夕凪が言ってた相談したい事っていうのも気になる。はやく五条の屋敷に戻りたかった。
あらためて夕凪が好きだと思う。夕凪以上の女はいなかった。いるかよ。いるわけねーだろ。5歳の時からずっと見てきてんだよ。婚約者は夕凪しかいねぇ。遺言書にも書かれてたじゃねーか。
……けど、そんなもんに従ってやろうとしたからおかしくなった気がする。あれから考えた。夕凪は遺言の内容を気にしてたんじゃねーかって。
遺言と自分は無関係だと思ってそれで僕と別れたんじゃないかって。今日、屋敷に戻ったら、夕凪に会ったら、遺言に書かれてる婚約者は夕凪だって伝えようと思う。
「相手に一方的に伝えてはいけない」
はいはい、ひい爺さん、わかってるよ。けどさ、五条家の術式相伝の秘術において大事なのはそこじゃないよな。核心は別にあるよな。
イケメンでナイスガイの僕があんなダッセーやり方で夕凪を婚約の同意に至らせようとしたからおかしくなったんじゃねーの? 好きに女くどかせろよ。ひい爺さんは黙って雲の上から見てて。
堅苦しいスーツを脱いで、私服に着替えて五条の屋敷に戻ったのは午後5時前だった。
「夕凪いるー?」
顔を見たくて探す。昼間見た時は調子悪そうだった。離れをのぞいたけど姿が見えねー。屋敷の中にも気配がなくて、携帯にかけてみるけど繋がらない。電源が切られてるようだ。