第10章 別れ
「夕凪ならすぐ作りにいくけどな」
そう言いそうになってこらえる。屋敷だろうが高専だろうがどこだろうが夕凪ならきっと「待ってて悟くん」って言って走り去る。走りながら、僕が食べたそうな料理の候補を考えて、着いたらすぐ冷蔵庫見て、食材選んで、作って、持ってくる。
そんな夕凪が持ってきた料理に、性格の悪い僕が「遅ぇよ、ほかの料理で腹いっぱい」とか言ったら「悟くんなんか嫌い」って言ってむくれて自分で食い始めるんだろうな。
すっげぇカンカンの顔して。そんな夕凪のいじらしい姿が可愛くて、ほんとは食いたくて、横からつまみ食いしたら「食べないで、もうあげない」ってきっと怒る。
けど、僕はまたそれを横から食べて、食べないでって押されて、上から取って、最後は夕凪の料理を取り合いして完食してんだ、笑いながら。
まだ女は凍り付いたままだ。どうしようって隣の女と相談してる。
「冗談だよ」
「……そ、そうですよね。やだ、五条様ったら面白い方」
ほほほってアニメでしか聞かねぇような不自然な笑い方してどっか行った。