第10章 別れ
「五条様、ちょっとよろしいですか?」
香水つけすぎだろって女が急に近付いてきた。清楚なふりしてるけど男と遊んでそうな感じ。
「綾乃です」
見えそうなくらい胸アピールして寄って来る。僕がそういうのに落ちるとでも思ってんのかねー。
喜んで飛びつくとか、一晩遊ぶとでも思ってる? 誘惑するにしては、全然女の魅力ねぇーし。笑いすらこみあげてくる。
見たらすぐわかる逆ナンの中でもいっちばん典型的な女。まさかガチで婚約者ポジ狙ってきてるとか?
旧名家とはいえ、術師家系のお嬢様の中にもこの手の女がいたんだと冷ややかな気持ちになった。両親にちやほやされて育った顔してる。
夕凪は今ここで手伝って、五条のために、僕のために働いてんのにな。
「五条様、私、女子大行ってるんですぅ。今度遊びに来ませんか?」
「女子大? 遊びたい放題してんだろーな」
「私はお稽古事が忙しくて遊んでないですけど、祓ってばかりじゃ疲れちゃいません? たまには羽を伸ばすのもいいですよ」
「まぁね」
「お料理得意なんです! 五条様に作ってさしあげたい」
「じゃ持ってくれば?」
「いいんですかー?」
「いいよ、今すぐ持ってきて、キッチンそこにあるから」
洋館の1階の隅を指さす。
「え、あ、あのぉ、今ですか?」
「得意なんだろ? 今作れるよな」
「え、っと、材料があるかどうかわかりませんし……それに、普段と違うキッチンだとやりづらくて」
「あるもんで作れねぇーの? 得意なのに? 場所が変わったら出来ないんなら五条の屋敷も無理だよなー。つべこべ言わずさっさと作れよ」
顔が凍り付いてる。料理なんかしてねぇんだろ、そんな長い派手な爪で。