第10章 別れ
婚約の儀に向けての流れが滞った事で再び本家が集まり、話し合いが行われる。
当主と母親は、今も夕凪の事を諦めきれないようで口を閉ざしていたけど、先代は婚約者の制定を急ぐべきだと言う。分家から婚約の儀への準備は順調かと圧力がかかってきてるらしい。
五条家の親戚の前で遺言書に同意し、署名した以上、僕ひとりが勝手に判断して好きに動くことは出来ない。遺言は曽祖父の最期の言葉だ。
術師である曽祖父の遺志に同意しておきながら、背くことは呪いに転ずる。縛りと同じで一方的に敗れば五条家全体にどんなペナルティがあるかわからない。
以前の僕なら、それでもくだらねぇって言い放ってたかもしんねーけど、この1年でまた少し大人になった。
僕と夕凪のためにこれまで尽くしてくれた親に頭下げさせて、無茶苦茶にするわけにもいかねぇだろ。それをやるなら、自分が五条家の当主になってすべての責任を負えるようになってからだ。
形だけでも婚約者を選ぶ場所を設けるよう先代から言われる。長老にもお願いされて婚約者候補を集めてパーティーを開く事になった。
3月の桃の節句に開催。洋館を貸切るとのこと。御三家の分家から選ぶっていう遺言もあったけど、それこそ冗談じゃねぇ。遺言に記されてる術式相伝の秘術とは程遠い女しかいねぇ。
夕凪はいったん高専の寮に戻ったけど、体調を崩したらしく、また五条の屋敷に戻って来ていた。離れで静養してるって話。
見舞いに行こうかと思ったけど、それが僕のせいかもしれないと思うと、僕の顔を見たら悪化するんじゃねぇかと思うと足が遠のく。
体調がいい時は、屋敷の使用人の手伝いをしているようで、たまに見かけることもあったけど、話しかけていいのかもわからずそのままでいた。
夕凪は体調が良ければ婚約者候補が集まるパーティーに手伝いに来るらしい。僕の見えるとこにいてってあの時の言葉を守るの? 僕の側にいるっていったけど、婚約者候補と僕が一緒にいるのを平気で見てんのか?
――まぁ、普通に出来るか、もう好きじゃねぇんなら。僕を吹っ切ったのは夕凪の方だもんな。