第10章 別れ
当主も、遺言に背かないよう配慮しながら何度も夕凪に気持ちを確かめてる。それでも夕凪は揺るがない。
そこまで揺るがないってことは……。考えたこともなかったけど、五条家に迷惑なんていうのは口実で、ひょっとしたら、もう……。
夕凪が俯きながら和室から出てきた。僕の横を無言で通り過ぎようとする。
「なぁ、もう僕のことは好きじゃないの?」
「……うん……ごめん」
夕凪が走り出す。”追いかけてこないで” そんな風に言っているような背中を見せて。不意に親友だったアイツの背中が被って見えた。
新宿の人混みに紛れて消え去る後ろ姿。五条悟なのに何も出来ない。そんな自分を思い出す。最強でも特級でも五条悟でも夕凪の心をこちらに向かせることが出来ない無力感。
もう好きじゃないの?――それに肯定した夕凪のうんっていう言葉が、まるでガラスの破片で切り刻まれたかのように心を刺す。今まで感じたことのないキリキリとした痛み。
ただ茫然とそこに立ち尽くした。