第10章 別れ
「悟、わかってるだろうな、遺言書のこと」
『あぁわかってるよ。夕凪こっち』
遺言書のこと――これは ”無理強いをしたり強要してはいけない” そういうことだ。これも遺言に記されてる。夕凪を和室から廊下に出して目の前に立たせた。
『オマエ何言ってんの? 別れるって何? ひとことも聞いてねぇんだけど』
「さっき言ったとおりだよ。悟くんはあたしの事は気にせずに遺言を守って。あたしはもともと五条家に迷惑をかけるつもりはなくって、この時がきたら身をひこうと思ってたの」
『迷惑なんかかけてねぇだろ、身をひく方が僕にとっての迷惑だろ』
夕凪がなんでまた迷惑とか言い出したのかさっぱりわからねぇ。僕を信じてって言ったらまっすぐ僕を見てわかったって言ったよな?
夕凪は、五条に迷惑だから原点に戻るっていう。僕が夕凪を抱きしめたお盆の夜が夕凪の原点で、その時の自分に戻るって。どんだけ前に遡ってんだよ、なんでそうなった?
『マジで言ってる意味がわかんねぇ』
「当主のところに戻るね」
困惑してる僕を置いて、夕凪が当主のいる和室に戻る。引き留めたくても引き留めようがない。夕凪を強制的に縛ることは出来ない。彼女は僕の言葉には耳を貸さず、意思を固めているようだった。
自分は五条家に必要とされていないっていうような落胆の顔を見せていた。なんで? なにがあった?
これまでの行動を振り返ってみるけど、夕凪を不安にさせるような突き放すようなことをした覚えはない。五条家の対応も変わらない。夕凪が変化した理由がわからない。わからない以上、何も出来ない。襖の奥から声が聞こえる。
「話は終わりました。悟さんとは別れます。これまで本当にありがとうございました」