第10章 別れ
夕凪とはそれからも普通に接して2月を迎えた。当主が彼女を呼ぶ。僕もその場に居合わせる。夕凪はもうこれがなんの話だか、なんで呼ばれたか分かってる。後は気持ちを素直に話すだけ、それだけだ。
当主に聞かれたことをそのまま、ありのまま答えるだけ。僕のことを好きだって、愛してるって言うだけ。
夕凪が静かに和室に入って来て僕と目が合う。真剣な表情だった。心の準備を整えてきたような顔でしっかり当主に受け答えしてる。
夕凪出来るじゃねぇか。そう思っていると彼女の口から信じられない言葉が聞こえた。
「あたしは……悟さんと別れようと思っています。もともと期間限定の恋だと思っていました」
???? え、今、なんて言ったの? 別れ、る? って言った?
慌てて間に入りこむ。
『は? 夕凪、オマエ、なに言ってるかわかってんの?』
「悟は黙っていなさい」
『こんなおかしい話あるかよ、夕凪!』
「当主、悟さん、今までありがとうございました。私は五条家が大好きで、とても幸せな時間を過ごしました。遺言書に従って婚約の儀を進めてください」
寝耳に水どころの騒ぎじゃねぇ。こんな返答したら完全に終わりだ。遺言では夕凪の気持ちが何よりも優先されてる。
僕がどうこう言おうが夕凪にその気がなければ婚約者にすることは出来ない。当主の質問にストップをかける。夕凪と話しをするためにいったん和室を出ることにする。