第10章 別れ
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遺言書が開示されて1年。僕は19歳の誕生日を迎え、当主が再度、本家の人間を屋敷に集める。
「婚約の儀に向けていよいよ話を進めていく。婚約者の相手は遺言どおりで問題ないな? 悟」
「聞く必要ねぇだろ。仲良く1年過ごしてたの見てただろー? 微笑ましかっただろ?」
「浮気してる様子はなかったわ」
「なぁ、どんだけ息子のこと信用ねーんだよ」
冗談交じりに本家の人間同士で笑う。ほんとはもっとお堅い場になるはずなんだろうけど、こうやって緩く笑い合うのは、確認しなくても、もはやわかりきってることだから。
形式上やってるだけ。みんな夕凪と僕の事を認めていて、彼女を受け入れるつもりだ。早く進めたくてうずうずしてる。
もともと夕凪は本家に気に入られていたとは思うけど、準備期間の間、接する機会が増えてあいつの可愛い一面をよりたくさん知ったんだろうな。まぁ、そんな夕凪は僕のもんだけど。
――夕凪、待たせたな。遺言の話、聞いたら驚く? 喜ぶ? それともやっぱり!? って得意顔してくる? どの顔も好きだけど、顔全体で笑って嬉しがる夕凪が見てぇな。