第10章 別れ
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時計を見るともう午後11時。連絡するのがすっかり遅くなってしまった。慌てて夕凪に電話すると、まるでずっと携帯を握りしめてたみたいにすぐ電話に出る。
「あ、夕凪?」
「うん」
「遅くなって悪りぃー」
「大惨事になってない?死人出てないよね?」
電話の向こう側で夕凪が思い詰めた顔して携帯ギューって握ってるのが目に浮かぶ。五条家が血の海になってるとこでも想像してたんだろうな。
夕凪は遺言を開示されても、僕が穏便でいる事を不思議に思っているようで、遺言はどうだったのかと質問してくる。
「問題ない。これまでと同じように夕凪と付き合うつもりだけど」
「問題ない、ってどういうこと?」
今すぐにでもオマエが遺言に書かれてた婚約者だから、って言いたくなるけど、本家との話し合いを思い出してぐっと言葉を飲み込む。婚約者だって事は黙ったまま夕凪を安心させろって言われてる。
「内容に関しては僕と本家しか知る事が出来ないんだよね。婚約者は今は明かせないようになってる」
「そう……」
余計、不安にさせた? この状態で安心させろって言う方が無理だろ。夕凪はまだ不安そうな声してるけど、これからも僕と付き合うって言った。
――この先、もっと幸せが待ってるからな
心の声を送る。まずはハワイでも行こうぜ。誕生日と絡めて電話で少し強引に夕凪をハワイ旅行に誘ってみる。