第10章 別れ
その後も本家でしばらく話し合いは続く。夕凪にどう対応していくかって話だ。まずは夕凪が術師の任務で死ぬ事があってはならないから、高専に掛け合ってうまく調整するという。
それは僕は関わらなくていいと言われ、特にする事はない。それ以外の段取りも話し合ってるようだけどそれも関わらなくていいって。することねーじゃん。
「僕はなんかすることあんの?」
「悟はこれまでどおり、仲良くやってればいいのよ」
「仲良くね……んじゃ、南の島でも連れて行くかー。ずっと行きたかったんだよね」
やっぱりハワイがいいよなぁ、って考えてると父親の冷ややかな視線を感じる。
「悟、高校生で何を言って――」
「あらいいじゃない、楽しそうだわ。当主も連れて行ってくださったじゃない。私がザッハトルテ食べてみたいっていったら、じゃあ行こうって」
「んん、ん」
「確かあの時、私、16だったかしら」
女が食いたいチョコケーキのためにわざわざオーストリアまで連れて行くとか、派手な事やってんじゃねーか! 父親が気まずそうに母親から僕に向き直る。
「その……来年は忙しくなるし当主になればなおさら自由な時間が取りにくくなるから、今のうちに行って来なさい」
話はついた。これで堂々と夕凪をハワイに連れて行ける。
18歳の誕生日に僕に開示された遺言書。曽祖父が記した僕の婚約者の相手――それは尊夕凪だった。