第2章 ただそれだけ
夕凪が横たわっている。
よく見る風景だ。俺を助けようとして人が死ぬ。
でも――理解できない。
なんでこいつは俺を助けたんだ?
護衛でもないのに。俺より弱ぇのに。
いつも嫌いって俺のこと言ってんのに。俺を守ろうとする奴はだいたいこう言う。大人だから、それが仕事だから。
でもコイツは違う。子供だ。
俺に何かあったら連絡することくらいは命じられてるだろうけど、助けろとは言われてないはずだ。
なんで俺を助けた? そしてなんで死ななきゃいけない?
そう思ったら夕凪が死ぬのが嫌になった。誰にも命令されてねーのに死ぬとかねぇだろ。明日から誰と池まで走んだよ!
当主から聞いてた蘇生法を思い出す。呼吸の確認、出血の確認、瞳孔の確認、脈。咄嗟に全てを確認した。
まだ夕凪は生きている。
嫌な雑音が混じってるけど微かに聞こえるヒューという細い息。頼りないけど生きている。
夕凪の弱い呼吸を復活させようと、俺は口から息を吹き込んだ。
死にそうになってるのに、その唇は柔らかくて、もちろん俺はその感触は初めてで、大事なのは気道の確保なのに何度かその唇の感触に気を散らされた。
ぴくっ
息を吹き込んで何回目だろうか?
夕凪の身体が動いて反応があった。
医学的な事はよくわかんねーけど、体を巡る呪力量は上がってきてるから多分蘇生したんだろう。
観察してると夕凪の目がゆっくりと開く。
その距離があまりに近すぎて、深いグリーンの瞳が俺の淡いブルーと重なりそうで、俺はさっとまた人口呼吸を繰り返した。
じろじろ見てたと思われたら叶わねえ。
ん、んん! おえ、ぐあっ、グホッ。
夕凪が上体を起こしてむせこんでる。ひとまず安心だ。
「起きるのおせーよ。死んだかと思っただろ」
もっと早く助けろとか恨みがましいことを言い返してくるかと思ったが、夕凪は呪霊はどうなったかとか、自分が死にかけてたことそっちのけで、五条家に連絡いれなきゃとか言ってる。