第8章 夜空
夕凪が俺の手を取る。繋がれた手は温かくて俺を救い出すような手だ。
「悟くん」
「ん?」
「これは抗えないものだったのかも。何をどうすればどう変わってたとかじゃなく」
夕凪と手を繋ぎながら俺も夕凪の視線の先と同じ夜空を見上げる。ヒュューーー、ドンと鳴る音。色とりどりに牡丹のように咲く花火。こうやって人は夜空を、花火を見ながら、色んな思いを語ってきたんだろうか?
「けどね、悟くん、今思った」
「ん」
「悟くんと夏油先輩、あたしと灰原の時間はぷっつり切れたわけじゃなく今もずっと続いてる。それは今のあたしたちを作っていて、これからも影響を受けていくもので、それがあたしたちの青き春なのかもしれない。それぞれが超えていくもの」
夕凪に宿った呪いを解呪するはずが、気付けばコイツは俺のために話をしていて、胸のざらつきをわだかまりを掬い上げる。
「夏油先輩はいなくなったけど、悟くんと過ごしてきた時間がゼロになるわけじゃない。きっと、悟くんと夏油先輩はこれまでもこれからも――」
「親友、だよな――たったひとりの」
夕凪が言葉を止めた先を俺が答えた。
「あたしも灰原はずっと親友。永遠に会えないんだとしてもこれまでの時間があたしを形成してる。あたしのこれからにも彼はいる」
「呪いは解呪されたみてぇだな」
夕凪の表情が晴れやかなものに変わった。と同時に俺の胸の中が凪いでいく。
呪詛師に成り果てた傑は今も俺のたったひとりの親友だと再認識させられた。そして、親友だからこそ、俺がこの手でアイツを夏油傑を制さなくてはいけないとそう思った。
夕凪が俺の肩に頭をもたげてくる。繋いでいた手を離して肩に手を回しぎゅっと抱きしめる。コイツだけは何があっても離したくない。抗えないものにはしたくない。力づくでも側に置いておきたい。
最強の俺の心の中にすっと入ってきて突然出来た隙間みたいな空白を埋められるのは、きっと夕凪しかいない。