第2章 ただそれだけ
なんで、って悟くんはあの時、確実に命を狙われていた。そんなの理由なんかいる? あたしは……ただ……。
「悟くんだから。それだけ」
悟くんはすっごい驚いた顔した。そんなに変なこと言ったかな?
無意識に体が動いたしそれ以上の理由を聞かれてもあたしにもよくわからない。
しばらく動揺していたようだけど、悟くんは次第に穏やかな顔になっていって、あたしの両肩から優しく手を離した。
「……夕凪さ、次余計なことしたら殺すから……ま、でもサンキュ。今回はオマエのおかげってことにしとく」
サンキュ――五条家に来て、悟くんに出会ってこんな風にお礼を言われたのは初めてだ。
胸の中からなんかドキドキっていう音が聞こえる。そしてそれとはまた違うドクンドクンっていう脈があたしの中でうごめいている。
サンキュって言った悟くんの唇の動きで、ほんのりさっきの感触を思い出す。
唇に残るあたたかみと柔らかさ。そっと指を下唇にあててみると悟くんの唇がまだそこにあるような気がする。
ふぅーふぅーって入ってきた熱のこもった息の感触。