第2章 ただそれだけ
ん、……。
真っ暗。
何も見えないし闇の中だし死んだのかな?
そう思ったけど、目には力が入りそうだった。
重たい暗幕のようなまぶたを持ち上げると、ゆっくり光が差し込まれる。ぼんやりとした銀杏みたいな形が見える。
その輪郭は少しずつはっきり線を成し、見えてきたのは悟くんの六眼だった。
こんなに近くで見たのは初めてで、白いまつ毛の束と広大な空の様なその瞳に吸い込まれそうな感覚になる。
まだ胸が苦しくて、つっかえる何かが肺を圧迫しているみたい。息をするのがすごく苦しい。
するとそこに息が吹き込まれた。
フゥー、フゥー。
鼻をつままれて顎を上げられ悟くんの息があたしの口から肺に入る。
フゥー、フゥー。
フゥー、フゥー。
ん、んん!おえ、ぐあっ、グホッ。
あたしはつっかえてる何かが飛び出しそうになって咄嗟に上体を起こし、むせこんだ。
「起きるのおせーよ。死んだかと思っただろ」
悟くんはほんの一瞬だけ安堵したような表情を見せたけど、すぐにいつものムッとした顔に戻りあたしを見ている。
辺りをぐるりと見渡すと池がある。この沼みたいな池はさっきあたしが悟くんを飛ばした池だ。
「あ!呪霊は? あのへんな気持ち悪い黒いやつ!」
「祓った。もう跡形もねーよ、やり方適当だったけど。」
「誰か、呼ばなきゃ、五条家の人!」
「もう何もないからいいんじゃない?それよりさ……」
悟くんがいつになく真面目な顔つきになって、あたしの両肩を掴んだ。
「なんで、なんで俺を助けた?」