第2章 ただそれだけ
「悟くんもうすぐ着くから! 無事でいて」
悟くんを目前にして、あたしは祈る。
そして、校庭に着いた時、重なる大木の隙間から黒い危うい影を見た。
悟くんは矢のような呪具に警戒してその使い手と対峙している。
これは勘だけど、悟くんは多分、この黒い影に気付いていない。
どういうわけか呪力がほとんど0だからだ。悟くんのいるところからは見えない。
悟くんは黒い影なんて気にしてなくて、矢のような呪具に警戒してその使い手と対峙している。
当主の話を思い出す。
術式解除の話や危険な呪具。そんな気配がする強力な空気の流れ。あたしは刻まれてる生得術式で空気中の物質の変化に敏感だ。
きっと悟くんが無下限呪術を発動して油断したところで、奇襲を仕掛け、驚いた隙に術式解除の呪具を使い、黒い影が悟くんを殺すに違いない。
そうあたしは判断した。多分これまで生きてきた9年間で1番速く動いた。
呪具の矢のトライアングルに囲まれると悟くんの無下限が強制解除されたようだ。
やっぱり!
敵が悟くんを襲う前に、自分の術式で悟くんを包み、校庭のすぐ裏にある沼のような池に飛ばす。
初めて悟くんを池に落とした。術式で守られてるから、酸素は供給されて溺れる事はないだろう。
それから悟くんが対峙していた輩と向き合う。呪具の矢を放ってきたけど、それは見えてたから避けれた。
それよりも大木の隙間から出て来た黒い影が猛スピードで突進してきて、そっちが怖くて思わず身がすくむ。
影は人ではなく呪霊だった。
気持ち悪い。怖い。悟くんが言ってたとおりだ。きっとオバケよりきしょい。
呪霊の粘液があたしのカラダを包む。祓い方は知らなかったし、多分言われても出来なかったと思う。
何度も言うがまだ9歳だ。一度にたくさんの事は出来ない。
黒い影にまるまる包まれて、あたしは死んだと思った。
息が苦しくなって、頭はくらくらするし、これはきっと窒息っていう死に方だ。