第8章 夜空
「つけて」
髪の毛持ち上げてねだってくる。首の後ろでフックを留めて鏡の前に立たせた。
「ワンポイントのオープンハートが超可愛い。ありがとう悟くん! どう? どう?」
「……まぁ」
夕凪は俺の反応にどうせそんな事しか言わないよねって顔だ。なら最初から聞くな。内心似合ってるって思ってる心の声を見抜かれそうで夕凪から少し距離を取ると、俺の背中に甘えてきた。頭コツンって寄せてきたような感覚。
「大事にするね」
ぎゅーって後ろからしがみつかれる。わざとなのか、もともと持ってるもんなのか、コイツの何気ないこういう仕草に心がぶち抜かれて最近俺の好きがやばい。
仕方ねぇーから振り返って感想を言ってやることにした。
「似合ってるし可愛い……かも、な」
「え! 可愛いって言った? ブスがマシに見えるとかじゃなくって?」
夕凪が丸っこい目をさらに丸くして口に手を当てて驚いてる。嬉しぃって顔して。そんな顔されるとまた調子が狂うけど、誕生日だしサービスすっか。
「ブスだったらオマエのこと彼女にしねぇーよ。夕凪の可愛さは、そうだな……俺がバグるレベル」
「悟くんすでにバグってる。そんなこと言うなんて悟くんじゃない! 熱でもある?」
夕凪がハイテンションで壊れそうだ。
「お願い、もう一回だけ可愛いって言って! そしたら来年まで言わなくていいから」
「あ゛? 無理」
「お願い、おねがい」
だからその丸っこい目で懇願してくるのやめろ。俺がそんなこと、何回も言うわけねぇの知ってんだろ。
「……」
だから、言わねぇーって……。
おい、そんなんでしゅんとすんなよ!
あぁ、もぉーウゼェー。
「……可愛い。これで当分言わねぇからな!」
「ちょっと待って、録音する! 念のため5回言って。ちゃんと録れないと困るから」
夕凪――
オマエさぁ、俺になにやらせんの?
こんな恥ずかしい俺、誰にも見せれねぇわ。