第8章 夜空
ガキの頃はそこまで夕凪のこと気にかけてなかったからイルカショー見たことねぇーとか知らなかったな。俺も懸賞金かけられてたうんぬんがあって、ガンガン出歩いてたわけでもねぇーけど、それでも御三家の行事で出掛けることがあれば、ついでにいろいろ見聞したし、行きたいところがあれば見たいものがあれば連れて行ってもらえた。
夕凪はその頃、五条家の厨房で出汁の取り方とか覚えてたんだろな。そう思うと、コイツが行きたくて行けなかったところは俺が全部連れて行ってやる――そんな気になる。
イルカが泳ぐ海底トンネルみたいな通路を通った。確かに癒される。夕凪目線の遊び方も悪くねぇ。海の生き物、川の生き物、ぐるっと周遊してタイミングが合えば餌やり体験もしてみる。結構楽しい。
「ウミガメにもモテるんだね、悟くん」
「妬いてんの?」
「あはは! まさかまさか」
んなこと言ってさっきまで、ウミガメ相手にむくれてたよな? 餌ぶらさげたら俺のとこに5匹くらい寄ってきて、係員が全員メスですとか言うから。
水族館にはちょっとしたアトラクションが隣接していて一緒に乗り物に乗ると、夕凪はひとしきりきゃーきゃー言ってた。っていうか絶叫系強すぎんだけど。俺の方がちょっと気持ち悪りぃ。え、まだ乗んの?
海岸沿いの遊歩道を歩いて、お土産ショップで俺とお揃いとかなんとか言ってイルカの携帯ストラップを買う。「こんなん恥ずかしくて付けられっか!」って言ったけど「付けなくても持ってるだけでいい」と言われ、夕凪が財布を出しながらレジ前に持っていくから、慌てて追いかけて俺が金を出す。
買ってすぐに「はい」って渡された。すげぇ笑顔の圧に押されて、その日だけストラップ付けてやることにする。