第2章 ただそれだけ
1年生の時だ。学校でお父さんの顔(おじいちゃんでも可)を描きましょうって言われた。
でもあたしはお父様もおじいさまも小さい時に死んでしまって顔を知らない。唯一見たことあるのはお父様の写真だけど……。
お父様は目を黒い布で覆っている。お母様にその理由を尋ねたけど、難しくて、呪霊がどうのこうのって言って小さなあたしにはよく説明がわからなかった。
目隠しをしたお父様は、口元を綻ばせていて赤ちゃんのあたしを抱っこしている。
覚えてないけどきっと可愛がってくれたんだろう。とても幸せそうな笑みで、あたしはそのお父様が大好きだった。
だからそのままを描いた。
そしたら……クラスの男の子が……
お前のお父さんって犯罪者? って、目ん玉隠してるとか変! って笑われて。
あたしは何も言い返せず、教室を出た。涙で目の中がいっぱいになって溢れそうになったからだ。
泣きたくて誰もいない場所を探した。でもここは学校。どこにいたって誰かいる。
目を思いっきりつむって泣くのをこらえる。泣かないように一生懸命、歯を食いしばる。
悟くんに泣かされてるから涙をこらえるのは慣れてる。
五条のお屋敷に戻るといつものように悟くんが池の近くにいる。
競走か……とても遊ぶ気にはなれないけど、学校で泣かないように踏ん張れたのは、ある意味、悟くんのおかげだ。
一応、ただいまって言った。
でもその日、悟くんは、競走するぞとは言わなくて……。
「いつか泣かなくていいようにしてやっから。呪術師は目を隠す事が多くてよ、それはよく見えるって事だから、自慢していい事だから」
って…。
いつか、ってそれはいつなんだろう。
気休めで言ってくれたのかもしれない。でも、あたしはそれを聞いて悟くんの前で大泣きした。唯一泣ける場所だった。