第2章 ただそれだけ
「おい、誰がかくれんぼしろって言ったんだよ」
声が聞こえる。聞き覚えのある声。毎日聞いてる声。
目を開けると、蔵が半壊していた。入り口はなくなって鍵そのものが意味をなさなくなってる。
「悟、くん?」
あたしは顔を見たら安心して、それと同時に意識がとんだ。誰も見つけられなかったあたしを悟くんが見つけてくれた。それだけはわかった。
どうやら術式の残穢が蔵の外に少し漏れ出ていたみたいでそれが彼に見えたらしい。
こんな広いお屋敷の中でほんの僅かな残穢を感知してくれた。
その後、あたしは、お母様をはじめ五条家に仕えている偉い側仕えの人からこっぴどく怒られた。
今までで一番きつい言葉を言われ泣いて何度も謝ったけど、こんなの弁償出来る金額じゃないから五条家から出て行くしかないって。
だけど、悟くんが、そんなあたしの前に立ってくれて、大人の間に入ってくれて……。
「蔵の管理ちゃんとしねーで、鍵あけっぱなしにしてたの誰だよ。調べ上げてわかったらただじゃ済ませねーからな。俺が閉じ込められたらどーするつもりだったんだよ」
すごい怖い顔で一番偉い大人の人に言い寄ってる。
「第一、蔵、破壊したの俺だし弁償もくそもねーだろ。夕凪は死んでたかもしんねーのに五条のお宝の方が大事?」
悟くんの呪力が増量して大人たちは手のひらを返したみたいにあたしに怪我はないか、とか、よく頑張ったね、と声をかけ始めた。
悟くんが怒り出したら手をつけられなくなるのはみんな知ってる。
悟くんは、あたしのために怒ってくれた。
「命の恩人って呼べよ」
そんな風にあたしには半年くらいずっと言い続けてきたけど。