第2章 ただそれだけ
五条家のお屋敷は本当に広い。探検したい好奇心がうずうず湧いてくる敷地。
勝手にうろうろしちゃ駄目よと、お母様に注意を受けていたんだけど、戦いごっこした時に見つけた古い蔵が気になってあたしはそうっとそこに忍び込んだ。
骨董品っていうのかな? 壺や掛け軸、お茶の道具、香炉いろんなものがある。
わぁー。
少しだけ手に取りたくて近づく。相変わらずあたしは怖がりだったから、少しだけ見たらすぐに蔵を出るつもりでいた。その時だ。
ギィ――――ガチャン。
重たい扉が閉まって内側に鉄のような金属が上から下に降りてきて施錠された。扉の重みで勝手に閉まってしまったようだ。
「誰かー! あけてー」
ダンダンダン!扉を叩く。
声を上げるけど、この蔵は屋敷の中でも辺鄙なところにある。古くて使わないから普段は誰も立ち寄らない場所だ。
大きな窓から差し込む光で暗くはないけど、窓は高いところにあってそこまで登るのは無理そう。
内側にかかっている鍵だから何とかなるかもしれないと思って、ロックされた鍵を持ち上げて見るけど重くて指がちぎれそうになる。
「おかあさま! おかあさまーー!」
叫ぶけど何の反応もなくむなしく声が空中に消えるだけ。明るかった窓は日が沈んだのか真っ暗になり、蔵の中は何も見えなくなった。
怖い。寒い。お腹すいた。叫びすぎてもう声も出ない。
次々流れてくる涙を、着ている洋服の袖でぬぐったから腕から下がびしょびしょだ。垂れた鼻水と涙で洋服そのものもべちょべちょ。
どれくらい時間が経ったんだろう。また窓からは光が射し込んでいた。
誰にも気づかれないままこんなところで息絶えるのかな、そう思ったとき、あたしは呪力を使った。
まだうまくコントロール出来ない。こんなところで最大出力で術式を使ったら、ここにある大事な五条家のお宝も破壊されてしまう。
なるべく、鉄の施錠だけに術式が向くように熱で溶かせるように空気中の物質をそこに集める。でも、溶けたのはほんの一部で全然びくともしない。
代わりに近くのお皿や壺が壊れてしまった。
どうしていいのかわからなくて、呪力も尽きてあたしは気づくとそこに倒れこんでいた。
体力も奪われて何もかも限界だった。