第6章 キスの味
「胸、刺された時、このお守りが防いでる間に内蔵を避けれたから。サンキュな。この制服はもう着れねーけど」
「また作るよ、またお守り縫いつける。そんなの何回でもやる」
「何回もって、もう二度とこんなのはごめんだ」
話を重ねていると、少しずつ安心したみたいだ。次から次へと流れ出ていた涙が落ち着きを見せ始める。よかった。
俺が安堵すると、夕凪の翠の双眼が優しく俺を包み込んだ。そして俺が感じた夕凪の変化が突然声になって現れる。
「悟くん」
「ん?」
「あたし、悟くんが好き、大好き。遺言開示まで気持ちを言わないなんてそんな事言って黙って、返事を先延ばししてごめんなさい。あたしが間違ってた」
「夕凪?」
「あなたの事を愛しています。あたしと、夕凪と付き合ってもらえますか?」
生暖かい風が頬を撫でる。ぼろぼろの制服が少し風に靡く。耳から入ってきた言葉は夕凪が言ったのか? と目の前の夕凪をもう一度見てみる。
いつも周りを気にしてたり、誤魔化したり、言いにくそうにしたり、恥ずかしげにする夕凪が、真っ直ぐ俺を見てる。夢? なわけねぇか。一時的に頭ん中混乱してるとか?
「……本心だよな? あん時はどうかしてた、とか気の迷いだった、とか後で訂正してきても聞かねぇからな」
「じゃあ、言わないように、何も言えないように今すぐあたしの唇を塞いで。悟くんが欲しいの、悟くんに触れたいの……悟くん、キスして」
「……まさか夕凪がそんな事言うなんてな」
夕凪がまだ涙の跡を見せながら微笑んでる。欲しがろうとしない、わがままで人を振り回せないって啖呵切ってた夕凪がキスしてって俺にせがんでる。あの夕凪が。