第6章 キスの味
「さと、るくん……な、の?」
「傑から聞いたかもしんねーけど、任務に失敗した。敵に手こずって予定より戻るのが遅くなった」
「生きてる、の?」
夕凪が腕を伸ばして来て俺の頬に触れる。手が震えてるのか頬が振動するからその手の震えが止まるように上から手を重ねた。
「生きてなかったら、俺は夕凪の苦手なお化けって事になるよな」
「どうなったの? 殺されたって聞いて、あたし、それで……」
涙で声が滲んでいて、手だけじゃなくて夕凪は声も震えてる。
「実際、死にかけた。けどそんときよ、オマエのこと思い出して、俺は一切の反撃を止めて、全神経を反転術式へと注ぎ込んだ。夕凪にこんな呪いかけられたまま死んだら、俺、怨霊に転じてずっと成仏できねーからな」
少し破れてるけどお守りの中に入ってた薄紙を見せる。
”悟くん死なないで”
夕凪の涙が止まらねぇ。まだ俺が生きてる事が半信半疑みたいで、夕凪のお守りの事、反転術式を使えるようになった事や、赫や茈の事を話す。
呪術師は、ゆるやかに成長する事もあるが、強い術師ほど、ある日ある時、何かをきっかけにグンと急成長する。例えば黒閃を経験した時や、俺みたいに死の淵に立たされた時。
夕凪も、3日前にここを出る時とは違っているような……うまく言い表わせられねぇけど変化してるような気がする。