第6章 キスの味
すぐ目の前にある夕凪の艶やかな唇。
ドクッドクッと鳴る心臓の音がやけに耳につく。
――キスしようと思った。夕凪はキスして欲しそうにしていた。ガキだと思ってた夕凪はそこにいなくてふんわりした色香を漂わせてる。
俺のこと好きって顔して見つめてくる。そんな夕凪を離したくなくて手を伸ばした。キスしやすいように頭の後ろを手で支える。
唇を近づけようとすると、夕凪が目を閉じかける。そのまま俺も目を閉じて唇を重ねようとした。
けど、目を閉じる前に見た夕凪の顔が切なそうで……。
暗かったからそう見えただけなのかもしれねぇ。夕凪はこれまでキスの経験があるのか? 知らねーけど多分ないんだろうな。あったとしても俺とは初めてのキス。
夕凪のファーストキス。
それはそんな切ない顔でするもんじゃなくて、もっと幸せそうな顔でするもんだろ……。
「やめやめ!」
「……」
「来年まで待つんだろ? 全然俺は納得いかねーけど」
自分でも信じられねぇことした。この状況でキスしないとかありえねー。こんな事するのは、すげぇ禁欲主義者か、ただのチキンかどっちかだ。俺はどっちでもねーんだけど。