第6章 キスの味
薄暗い保安灯の灯りの中で夕凪の方を向いてたら変な気、起きそうで俺は背中を向けた。黙って目を閉じてみる。
しばらくすると静寂が部屋を包み込む。うどんの出汁の匂いは消えて、夕凪の香りが少しだけ漂う。花みたいないい香り。
静けさと優しい香りが副交感神経を刺激したのか少し眠気を催してきた。夕凪が言うように和漢の影響もあるのかもしれねぇ。
目を閉じながらふと思う。男女が二人っきりでこんな薄暗い室内に居るって普通、男ならいろいろ考えるよな。
でも夕凪とはこれまで五条の屋敷で、離れで2人でいる事もたくさんあったから、この線引きには慣れてる。というか、夕凪がガキだから俺は線引きしてる。
もし俺がそういう気を起こしたら、夕凪は怖がるんだろうな。手繋いだぐらいで真っ赤になってるくらいだからなー。
俺ら付き合ってねぇみたいだし!!
夕凪の返事を思い出して、またため息つきたいような拗ねたいような気分になる。
中学時代、夕凪が俺に彼女作ればって言ったから、夕凪は俺の事なんか全く眼中にないって感じだったから、半ばヤケみたいに彼女作って遊んでた。
夕凪が聞いたら耳を塞いで目を閉じて「来ないで。そんな話、聞きたくない」って言いそうな事も経験済。全て女の方から誘ってきたしノルでしょ、生理的なもんだし。相手が誰だったかとか全く覚えてねーけど。
それにしても静かだ。
ひょっとして夕凪、寝てんじゃねーだろうな? 寮の門限あるし、さすがにここで一晩俺といましたはまずいだろ。俺はともかく夕凪が叱られてゲンコツ食らうのは見たくねぇ。
気になって、寝返りを打って夕凪の方を向く。寝返り打つタイミングでほんの少し目を開けると、夕凪はうとうとしかかってた状態からちょうど起きたようだった。
「俺が寝るまで見てる」って言ってたから、寝てるって思わせて寮に戻らせねーと。目を閉じたまましばらく夕凪の気配を感じとってた。