第6章 キスの味
俺の好きな味で飯を作れるのも、今こうやって俺の側にいれるのも五条家のおかげだって、コイツが思ってんのなら、まぁ、恩義を感じて1年半待ちたいっていうのもわからんでもない。
けど、1年半て長ぇわ夕凪ー。やっぱ俺は無理。
うどん食ってる最中に夕凪のお腹が鳴った。俺の方が大事だって言って食うのを忘れてたって言う。なんつーかこういうところが夕凪って感じ。
好きな相手を手に入れたくてそういう行動に出る事はあるんだろうけど、その後のリターンを求めて献身的になる事はあるんだろうけど、こいつは違うんだよね。貪欲にもっと俺のこと欲しがれば? って言ったけど、あれから何も言ってこねぇし。
続けて夕凪は見覚えのある薬包をテーブルの上に出してきた。五条家代々のもので無下限を扱う術師の回復に効果がある漢方だ。
「これ奥様から預かってたの。飲んで」
「出来たヤツだな。俺には出来ねぇわ、こういうの」
「俺のことずっと側で見ててっていったのは悟くんでしょ?」
「別に世話しろって意味じゃねぇけど」
「でも、こんな時はあたししかいないでしょ」
偉そうなこと言いやがって、と思ったけど俺も大人になったのか、夕凪の言うとおりかなと思う。オマエしかいないよなぁって思う。
夕凪は、俺と喧嘩してようが、口利かなくなろうが、今みたいに、考えがあわなくて関係がちぐはぐしようが、俺がふてくされてようが、面倒くさくなって夕凪を邪険に扱おうが、いつも俺を気にかけてて、それは一定してそこにある。
あったりなかったりするもんじゃなく状況に関係なく常に。まるで夕凪の術式で用いる空気みたいにいつもある。しかもそれは空気がそうであるように、不快な押し付けと感じさせない何かがあって、例えるなら絶対的な安心感。
「まぁ、そうかもな」
肯定した。1年半待ってっていう返事を聞いた時は、こんな夕凪と俺はうまくやっていけんのか? って思ったけど、こんな夕凪だから俺とうまくやっていけるのかもしれない。