第6章 キスの味
「んじゃあ、もう戻れよ、明日も討伐の任務入ってんだろ?」
夕凪を寮に戻そうと腰掛けていたベッドから立ち上がり、ほらほらって入り口まで歩かせようとする。急に立ったからか軽く立ちくらみして、夕凪の肩に手をついた。
「ねぇ、ちゃんと食べてる? 熱っぽくない? 寮長があまり食事に口つけてないって言ってたけど」
「食いたい気分じゃないだけ、気にすんな」
「あのさ、五条家のおうどん食べる?」
リュックの中にたくさん調味料を入れてきたって言う。夕凪の作る飯は美味い。そりゃあ、まぁ、そうだよな。俺とおんなじもん食って育ってきてんだから味覚が似てる。五条家に仕えてる母親の手伝いも小さい時からやってて、手際がいいのも知ってる。
相手するのはだりぃけど、うどんは食いてぇな、とか考えてると「待ってて」って言ってリュックを持って飛び出して行った。
あっという間に夕凪が戻ってくる。美味そうな鰹だしの匂いを漂わせて。懐かしい香り。けど美味そうって言うのもなんか夕凪にマウント取られそうで、いつもみたく接する。
「見た目はうどんだな」
「中身もうどんだよ、あったかいうちに食べて」
しぶしぶ食うようなフリして俺はうどんに口をつけた。それは、まさに五条家の味で想像以上に美味くて、食が進む。
ちょうど飲みたいなって思ったタイミングでお茶も出してきたから、ゴクって飲むとそんな俺のことを夕凪が得意げな顔で見てる。
「ふふーん。美味しい?」
「……美味くなかったら食わねぇよ」
夕凪面倒くせぇモードだったけど、解除されていってるかもしんねぇ。俺の心だけじゃなくて胃袋も掴んでくるんだから仕方ねーわ。こんな女は他にいないだろってまた夕凪の評価をあげてしまう俺がいる。