第6章 キスの味
◇
悟くんは次の日には体調が回復したようだ。また高専に戻ってきて日常を過ごしていた。
あたしはまた好きが暴走して悟くんにとんでもない事をしてしまわないように、前より少しだけ気を張った。
これまでと同じく、揶揄われてはむくれて笑い、冗談言ったり怒ったり笑ったりして過ごす。時々メールしたり電話したり2人で出かけたり。
1日1日が過ぎるたびに、悟くんの18歳の誕生日が近づく。怖いけど全てはそこから。そんな事思いながら来年のカレンダーを見る。
でも、それも、これも、全部あたしが間違ってた。
あたしが生きてるのは呪術師の世界なんだって事、すっかり忘れてた。
ささやかな嬉しさの積み重ね? 幸せの積み重ね? なに馬鹿みたいな事言ってたんだろう。
1年半後?
そんなの来る保証なんてある?
――今を大事にしない生き方してたら後悔するよ
悟くんの言葉が、言ってる意味がやっとあたしの中に落とし込めた。
それは突然起こった。
なんの前触れもなく。
なんの予兆もなく。
8月のとある朝。
湿り気の高い空気が感じられて暑くなりそうな日。太陽は昨日と同じように早くから昇り出し、寮の窓には朝日が差しこむ。蝉が起き出して高専内はジージーという鳴き声の重唱が始まる。なんてことない普通の日。
悪いことなんて起きる気がしなかった。
星占いランキングは2位。
朝ごはんも美味しくて、お味噌汁をおかわりした。