第6章 キスの味
「間に合わねーじゃん」
ぽつりと言う。
「何に?」
「俺の18の誕生日に」
「……」
婚約者について書かれた曽祖父様の遺言が悟くんに開示される18歳の誕生日。あたしがそこまで待ってってお願いした日。
胸に痛みが走る。悟くんは、あたしのためじゃないっていうけど、倒れるくらいに体を酷使したんだと思うとやっぱり少し心苦しい。
あたしが暗そうな顔をしたのに気づいたのか、悟くんがあっけらかんと言う。
「赫は通過点に過ぎなくて、それが完成すれば、仮想の質量を押し出す虚式も出来ると思うんだよね。それは五条家の中でもあまり知られてないやつで――」
説明が難しくて言ってる事がよくわからないけど、とにかく悟くんには、体を休めてほしい。あたしが今、彼に出来ることはそれを促すことくらいだ。
「悟くんもう休んで。少し横になりなよ」
時間はまだ21時前だけど、このまま眠れるなら寝た方がいい。あたしも22時には寮の自室に戻らなくてはいけない。悟くんに歯磨きと着替えをするよう命じてその間にうどんのお皿を洗って片付けた。
悟くんは寝るつもりはなかったみたいだけど無理矢理、悟くんを押してベッドの上に座らせる。
「全然眠くねぇ」
「奥様から頂いたあの漢方の中には少し眠くなる成分も含まれてるから目を閉じてたら眠くなるよ。寝るまで見てる」
「悪趣味だな」
「つべこべいわずに寝て!」
悟くんに布団を被せた。時計を見たら21時15分。あたしもそろそろここを出なくちゃいけない。
「悟くんが寝たらあたし、寮長に言って外から鍵をかけてもらうから気にせずに寝て」
しぶしぶ横になった悟くんに告げる。眩しいだろうから照明を落として保安灯にした。ぼんやりしたオレンジの灯り。これでうとうとしてくれるといいんだけど。