第6章 キスの味
悟くんが食べてるのを見てたら、あたしのお腹の虫がぐうと鳴った。自分が夕飯を食べてない事をすっかり忘れていた。
「食ってねーの?」
「あ、うん、忘れてた。悟くんのメール見た後すぐここに来たから」
「ちゃんと食えよな、体力つけとかねーと呪力にも影響出るし」
「うん、でも悟くんの方が大事だから」
「……オマエはいつもそうだよな、五条家が大事とかさ」
回復を早める和漢の薬包をテーブルの上に置く。五条家代々のもので古くから無下限を扱う術師に効果があるらしく、奥様から預かってたものだ。
「これ奥様から預かってたの。飲んで」
「ほんとに出来たやつだな。俺には出来ねぇわ、こういうの」
「俺のことずっと側で見ててっていったのは悟くんでしょ?」
「別に世話しろって意味じゃねぇけど」
「でも、こんな時はあたししかいないでしょ」
「まぁ、そうかもな」
悟くんがそんな風に答えてくれるとは思わなかった。あたしのこと、少しは頼りにしてくれてるのかと思って嬉しくなる。
よくわからないけど、付き合ってはいないけど、こんな日常の積み重なりの中で、ちょっとした嬉しさや幸せを感じて、はやく1年半が経てばいいなって思う。
それにしても、悟くんが倒れるなんて珍しい。何をしてこうなったんだろ?
「ところで、なんで倒れたの? 風邪じゃなさそうだけど」
「ちょっとやり過ぎた」
話を聞くと、無下限を長時間解かずにいたらしい。それで脳が焼き切れそうになって発熱したんじゃないかって。
「なんでそんな無茶な事したの?」
「もうちょっとで術式反転、赫が出来そうなんだよね。無下限いじってたらなんか出来そうだったんだけど失敗」
「術式の取説があるんでしょ?」
「そうだけど、読んでハイすぐ出来ましたって、そんな簡単なもんじゃねぇし、急いでんだよ」
「急いでる?」
悟くんは視線を脇に逸らして黙った。