第6章 キスの味
「ねぇ、ちゃんと食べてる? 熱っぽくない? 寮長があまり食事に口つけてないって言ってたけど」
「食いたい気分じゃないだけ、気にすんな」
さっきからずっと突き返すようにものを言ってくる悟くんをじっと見つめた。ふてくされたような顔して目を合わせてこない。
「あのさ、五条家のおうどん食べる?」
悟くんはいらないとは言わなかったから、「待ってて」って言って寮の厨房に向かった。
お手伝いで、何度も五条家のおうどんを作ってるから要領は得ている。鰹だしを取って鍋にみりんとお醤油、砂糖と、塩を入れる。
それらは全部五条家から持ってきた調味料だ。最後に白だしをほんの少し足した。冷蔵庫を見たらかまぼことネギがある。名前が書いてない食材は使っていいと聞いていたので、それも少しだけ添える。
お盆にのっけて再び悟くんの部屋へと戻った。
「悟くん、出来たよ」
声をかけると、決して喜んでるなんて言えない顔だけど、この五条の鰹だしの香りに釣られたんだろうな。寄ってきて悟くんはテーブルの前であぐらをかく。
「見た目はうどんだな」
「中身もうどんだよ、あったかいうちに食べて」
箸を渡すと悟くんはうどんに口をつけた。麺をひと口食べると食欲が出てきたようで次々と食べ出す。
その間にあたしは水筒に入れてきたお茶を出す。それもすぐに手をつけて、ごくと一口飲む。
「ふふーん。美味しい?」
「……美味くなかったら食わねぇよ」
相変わらずの減らず口だけど、さっきより少し顔が優しくなってあたしと目が合うようになった。
あたしが作った五条のおうどんを悟くんが食べてくれて、ちょっと元気になってくれた。それだけで幸せだなって思う。