第6章 キスの味
コンコンコン
ドアをノックするけど返事がない。ぶっ倒れちゃってるの? しばらく待ってみるけど反応がない。
「悟くん、悟くん!」
ちょっと心配になってドアをもう一度強めにドンドンと鳴らしてみる。
そわそわしてるとカチャという音と同時にドアが開いて見慣れた上半身が視界に飛び込んできた。見上げると普通の顔して立ってる。
「夕凪? なんで来たの?」
はい、あたしご名答! ピタリ賞じゃん。
「ちょっと今、大事なとこなんだけど」
悟くんは、眉をひそめてスタスタと部屋の中に戻り、ベッドに腰掛けた。手には携帯型のゲーム機を持っている。
あーとか、だりぃーとか言いながら指を動かしてる。話しかけんなっていう雰囲気。
どうやらあたしは放置された模様。
「お邪魔します」
勝手に部屋に入る。どこに座っていいのかも分からず、とりあえずベッドの近くのラグに座ってテーブルにリュックを置く。部屋の中を見渡すけど結構、綺麗にしてる。
グラサンが収納棚の上に山ほど飾ってある以外はシンプルなお部屋。水着着てるお姉さんの等身大ポスターとか貼ってあったらどうしようと思ってたけど、そんなのなくてよかったと思う自分がいる。
「クソっ、んだよ、後もう少しだったのに」
悟くんはゲーム機をポンっとベッドの上に放った。どうやら敵キャラを倒せなかったみたいだ。
「悟くん、体調どうなの? 昨日、実技の最中に倒れたんでしょ? ふらふらの状態で寮に戻ったって聞いたけど」
「大したことねーよ、メールに書いたじゃん。わざわざ来るとかひょっとして俺に会いたくなった系?」
突っかかるようなものの言い方する。やっぱりあたしのあの返事が今も気に入らないんだろな。
「……違うけど」
「んじゃあ、もう戻れよ、明日も討伐の任務入ってんだろ?」
腰掛けていた悟くんが立ち上がる。オマエが来ても特に何もすることなんかねーよって顔で。
仕方なくテーブルの上のリュックを持って立ち上がると、頭上に影が落ちてきた。ぐらっとよろめいた悟くんが、捕まるようにあたしの肩に手を掛ける。その手はほんのり熱い。