第6章 キスの味
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悟くんとは平行線のまま時が流れた。別に喧嘩したわけじゃないけど、仲良くもない。考え方の違いで折り合いがつかないだけ。夏油先輩と悟くんもたまにこういう事ある。親友でも起きるんだからあたしとだって起きるだろう。
そんな時、耳に入ってきた。
悟くんが倒れたらしい。
まだ7月、夏の始まりだ。熱中症っていう時期でもない。メールで「大丈夫?」って聞くと「大したことない。問題ない」って。
まぁ、そう言うよね。
けど……見に行かずにはいられない。これは癖みたいなものだ。考え事する時に髪をいじっちゃうとか、テストする時にシャーペンくるくる回しちゃうとか、無意識に発動してどうしようもないもの。
五条家に10年も住んでて、あたしは、使用人の娘で、次期当主が倒れたって聞いて「大丈夫って言ってたし問題ないっしょ!」とはならないの。喧嘩してるとかしてないとか、嫌いとか好きとかそういうことではなく、これは癖なの。
「なんで来たの?」とか言われるんだろうなぁと思いつつ男子寮に向かう。男子寮は普段、女子は立ち入り出来ないんだけど、怪我や病気などのお見舞いの場合は寮長の許可を得て、入ることが出来る。
高専に入学してまだ一度も足を踏み入れた事のない男子寮。少し緊張したけど、寮長に事情を告げて、許可をもらい、教えてもらった悟くんの部屋へと向かう。