第5章 いざ高専へ
「は? やなこった。別に見られてまずい事なんかねえだろ」
「甘いじゃん、なんか」
「どこが? 別にキスしながら歩いてるわけでもねーし」
「シーーーッ聞こえるから! キスとか論外!」
「いちいち反応でけーわ、ガキかよ。好き同士なんだから隣で歩くくらい普通だろ」
「すきどうし?」
「違うの? 俺、夕凪のこと好きだけど。付き合ってんじゃねーの? オマエは俺の彼女だろ?」
歩きながら夕凪の方を見ると、目をまんまるにして挙動不審みたいになってる。そんな驚く事言ったかよ、心の中で思ってる事、口にしただけじゃん。
「夕凪は俺のこと、どう思ってんだよ」
「え? あ、うん。――す……」
「いいよ、尊、気にしないで続けて」
「す……こし、考えさせて」
は!? 何が起きた? 会話の途中に入り込んで来たのは灰原だ。「なんでー?」ってすげえ残念そうな声出してるけどそれはこっちのセリフだ。
夕凪と話してる時、誰かが後ろから近づいてくるのは気取ったけど、俺がそれを気にしたら夕凪が答えられねーだろうと思ったから無視しといたのにコイツは!
「てめぇ殺されてーの?」
「すみません!!! 自分、まさかこんな話してると思わなくて。尊の忘れ物があったから、これ」
灰原が夕凪にハンカチを渡している。そんなもん後でいいだろ、なんで今、持ってきてんだ。
夕凪も夕凪だ。「す、き」って最初言ったよな? なんでこんなにじらしてくるのかわからん。
「オマエ好きって言いかけたよな? 考えさせてって何? 俺が好きなんだから当然オマエだって俺の事好きだろ」
「なにその理屈。それは悟くんがこれまで遊んで来た女の子のことでしょ? あたしに当てはめないで」
夕凪のあまりの強情さにさすがに俺もキレた。夕凪に合わせていた歩幅を自分の通常に戻す。
前にいた七海に追いつくと、デンマーク語を話された。おそらく「かわいそうに」とかその手の慰めの言葉なんだろう。意味なんか聞かなくても口調でわかるわ。